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サモエド・ララの事件簿 猫殺し  2/2

(続)
それから、1週間。うまい事コーチャンと公園で会えた。

「全部嗅いで来やした。共通してるのは青いヨモギのニオイ。
 さくら公園のが一番強くて、どんぐり公園のはかなり薄いから
 たぶん犯人のだと思いやすよ。 
 青ヨモギのところには必ず自動車のニオイもありやしてね、 
 それがどうも国境(=隣町との境の事だって)を越えるんでさ。
 あっしの大将はたまにしか隣町に行かないんで
 1回しか確認してないんでやんすけど、確かに隣町へと続いておりやしたよ。
 で、ララさん、なんとか隣町の犬につなぎをつけられませんかね?」

「そうねぇ・・・あ!そうだ!チワワのリンリンに頼んでみるわ。
 リンリンはオジイチャンに飼われていて、
 おじいちゃんの孫が隣町にいるんでしょっちゅう行くって言ってたもの」

「そいつは助かりやす。
 あと何かする事があったら言ってくだせい。何でもしやすよ」

「ありがと。そのうち頼むかもしれないけど、
 今は引き続き青ヨモギを追跡してほしいの」

「よーがす。コーチャン引き続き青ヨモギを追うでやんすよ」

あたしは速攻連絡網を回したんだけど
今回は伯爵夫人も一役買ってくれて、
いつもの半分の時間で済んだの。
自由猫がいてくれるとこういう時助かるわよねー。

というわけでそんなに間をおかずに
伯爵夫人がリンリンから返事を貰ってやってきたわ。

「リンリンさんがおっしゃるには・・・
 こないだの運動会でそのニオイを嗅いだんですって。
 オジイチャンがお孫さんの運動会を見に行くのに
 リンリンさんも連れていってもらったそうなんですのよ。
 で、そのぉー・・・ナニを催してナニしに行くのに
 あちこちうろついたらしいんですの。
 その時に学校の中にそのニオイが入っていくのをしっかり嗅いだんですって。
 何か、すごーく不愉快なニオイらしいですわね。
 気分が悪くなったって仰ってましたわ。で、ここが重要なんですけど、
 そのニオイは・・・・教員用玄関あたりで強かったそうですわよ。
 そこを何ヶ月も何度も出入りしてる感じなんですって。 
 つまり、学校の先生か関係者じゃないかって、リンリンさんが。
 ・・・嫌な話ですわね。
 学校って人間の子どもがたくさん集まる場所でございましょ。
 あたくしね、石をぶつけて来たりするんで
 男の子は嫌いですけど女の子は大好きですの。
 時々美味しいものをくれますのよ。
 そこに青ヨモギが居るのかと思うとねぇ、ぞっとしますわ。
 ララさん、絶対に捕まえましょうね」

伯爵夫人は上品に溜息をつくとひらりと塀の上に移動してどこかへ行ってしまった。

学校の先生あるいは関係者かぁ・・・
隣の町の事だから難しいけど、よく歩き回る犬に連絡をとらなきゃ、
とあたしはあちこちに連絡網を回した。

ところが、6月に入ってしばらくしてから、犬が殺されたの。
キャバリエ・キング・チャールズなんとやらのナイト君が。
ナイト君は室内飼いだったんだけど、天気の良い日はお庭に出してもらえるのね。
あ、でも、ちゃんとリード付きよ。
ちゃんと考える飼い主だったのよ。
でも・・・
でも、キャバリエって犬種はものすごく人間が好きなの。
友好度マックスなのよ。
そして、幸か不幸か、啼かないの・・・・
そういう性質が裏目に出たのね。
飼い主が気づいた時は切られた跡のあるリードが
ポツンと残っていただけだったんですって。

すぐに警察に届けたんだけど、次の日、
近くの公園の植え込みから惨殺死体になって発見されたの。

ひどい。

ひどいわ。

そして、悔しい。
 
猫が殺されて、犬が殺されて、
そして、おーちゃんやちーちゃんが・・・
いやーーーーーっ、絶対、嫌っ!
ウウッ!!オンオンッ!!
絶対、絶対、犯人を捕まえてやる。
バラバラにしてやるっ!

そんな時にリンリンとドッグランで会う事ができたのよ。
リンリンはあたしを見て飛び上がって喜んだわ。
あたしに会いたかったんだって。

「ララさん、連絡網を回したんですけど、今日会ったからここで報告します。
 柴犬のタローから、報告がありました。
 でね、タローも私みたいにお年寄りに飼われているんだけど
 そのオジイチャンがね、タローの散歩のついでに
 登下校のパトロールもしてるの。
 でね、でね、その時に青ヨモギのプンプンする家を見つけたんですって。
 そこの家の人は『センセイ』って呼ばれていた、って
 タローからの報告です」

リンリンは、タローの発見した家までの場所を丁寧に伝えてくれた。

説明通りにニオイを辿っていけば、その家に行けるはずだけど
問題はあたし達には『飼い主とリード』という足かせがあるって事なのよ。
杉さんと松さんはコーチャン言うところの
<国境>とは真反対のところに住んでいて
とてもそこまで散歩しそうにないし・・・

あたしが帰宅してから散々悩んでいると網戸越しに伯爵夫人が声をかけてきた。

「あらまぁ、難しいお顔をなさって・・・どうなさいましたの?」

それで、あたしは犯人らしき男の住みかを突き止めた事を夫人に話してみた。
伯爵夫人は目を見張った。

「素晴らしいですわ。もうわかってしまうなんて。
 あとはあたくし達にお任せくださいな」

「どうするの?」

「先日ね、集会で隣町の猫と知り合いましたの。連絡してみますわ」

伯爵夫人はニッコリ笑うと、優雅な足取りで帰っていった。
犬の連絡網を通じて、すでに聞いたリンリンの話や、
柴のタローの発見を裏付けするような報告もいくつか届き、
タローの見つけた家が犯人の家である確率はどんどん高くなっていった。

でも、それをどうやって人間にそれを知らせるか、よね・・・・
人間の言葉が話せたらなぁって痛感する時よ。
でも、あたし、字が書けないし・・・どうしたら良いのかしら。
あんまり思い悩んだんで、ママが料理中のキッチンをうろつくのを忘れたのよ。
そしたら、ママに心配されちゃったわ。
「ララちゃんがキッチンに来ないなんて具合でも悪いの?」なんてね。

数日後、伯爵夫人が目をきらきらさせてやってきて言った。

「お待たせしましたわね。犯人の青ヨモギの件、
 小春とトラオのコンビにお願いしてみましたの。
 2匹が、タローさんの言うとおりに行ったら、そいつの家に着いたそうですわ。
 周囲を探検するうちに小窓が開いているのに気が付いて、
 そこから侵入してみたんですって。 
 で、小春が・・・パソコンとか言う物を見つけたそうで、栗をどうにかして
 クロールがどうこうって・・・
 まったく最近の若い子の言葉はさっぱりわかりませんけど。
 そのパソコンというのが なんでも、テレビみたいなものらしいんですけど、
 丸い大福みたいなのをカチカチだかどうにかすると絵が変わるらしいんですの。
 それをやってみたら・・・
 そこにねぇ、あなた、仲間やこないだのワンちゃんの無惨な姿が出てきて、
 2匹ともそりゃあ、驚いたそうですわ。
 犯人は自宅のお風呂場であたくし達の仲間や犬を殺してたそうですのよ。
 で、小春が言うに、
 『たまたまつないであったから』プ、プリントアウト?だかセーフだかをして、
 紙にその絵を移したのをたくさん作って庭から道路へとばらまいて来たんですって。
 ご近所の人がそれを警察に届けて、青ヨモギのとこへ警察官が行ったそうですわ。
 トラオは青ヨモギが警察の中に連れて行かれるのを確認したそうですのよ。
 たぶん、これ以上は人間に任せるしかないと思うんですけど、
 ほかにあたくし達に何かできますかしら?」

そう。
夫人の言うとおり後は人間に任せるしかない。

でも、それよりあたしは2匹の活躍に感動すら覚えたわ。
そこまでやってくれるなんて!
小春ってスゴイ猫よね。
そして、猫もそれなりに仲間意識があるのね。
 
それから数日たったある日、ママがあたしに言ったの。

「バリーちゃんを殺した奴が捕まったのよ。
 小学校の先生だったんですって。
 そこの学校に子どもを通わせている人はぞっとしたでしょうね。
 でもさー、ペットは未だに物扱いだからね・・・
 器物損壊の罪にしかならないのよねぇーきっと。
 あーーなんだか悔しいわねー。
 でも、その人、猫もたくさん殺してたらしいのね。
 それでね、いずれは人間も狙う事になったんじゃないかって 
 これから精神鑑定を受けるんだって」

やった!!
捕まったんだわ。
とりあえずは猫も犬もおーちゃんもちーちゃんも安全てわけね。
あーーよかった。
後は青ヨモギがすごく悪い奴だってわかってくれるといいんだけど。
そのへん、人間て鈍いからなぁ・・・
でも、いいわ。
青ヨモギが家に戻ったとしても、猫さん達にも協力してもらって
あたし達が交代で見張ればいいんだもの。
おかしな事をしたら、たちまちガブリッ!よ。

それよりさー、あたし達って<物>だったのね・・・悲しいなぁ。
あたし達は家族のつもりなのにさ。
ペットを<物>であると考えるのは<法律>上の事らしいけど
今やペットは家族と同じようなものなのよ。
年頃になって『ぐれる息子や娘』はいるかもしれないけど、
あたし達は『ぐれたり』しないしさー、
そのうえ
嬉しい時はいっしょに喜ぶし、悲しい時は涙をペロペロしてあげてる。
ね、あたし達って素敵な『家族』でしょ。
 
だから、いずれは<準家族>というか、
法的にそういう存在になるよう頑張っちゃう。
さしあたって、何をしようかしら・・・
ここはやはり、お顔ペロペロよね。
ママーー逃げないでーー
ララちゃんが特別にペロペロしてあげるからぁーーーー!
by kumorinotini | 2007-06-20 07:35 | 創作 | Comments(0)

ミラーサイトだったのに、本家になっちゃって・・・


by kumorinotini