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サモエドララの事件簿 ララ・バイ・ララ 1/2

あたし、ララ。
サモエドの素敵な女の子よ。
今日は別荘に来ていまーーす。
って言ってもレンタルなんだって。
しかも季節はずれだから、ちょっとお安いんだって。
でも、別荘は別荘よ。
パパとママとちーちゃんとあたしの4人で来ました。
おーちゃんは後から合流だって。

去年もここに来たんだけど、いろんな昆虫や動物がいてすごく面白いのよ。
知らない木の匂いもして、お散歩のたびにワクワクドキドキよ。
でね、別荘の時はパパもママもちょっと甘くなって
お肉とかちょびっと頂けるの。
どう、羨ましいでしょ?
去年来たからこのへんの事はだいたい覚えてるけど
さっきパパとゆっくりお散歩したから、あたしの頭の中の地図はもっと詳しくなったのよ。
お散歩から帰ったら、ちーちゃんが掃除機をかけていて
ママが何やら言ってるわ。

「パパーお米を買い忘れてた。ちょっと下のお店まで行ってくるね。
 それに食器とかはちゃんとあるって言ってたけど、数が減ってるのよ。
 紙皿か何かを買わないと駄目だわ。ほかに・・・ビール、これで足りる?」

「ビールかぁ・・・もう少し欲しいなぁ。俺も行くよ」

「あ、助かる。じゃあ、運転お願いね。ちーちゃん、ちょっと行ってくるから
 お掃除、やっといてね」

というわけで
パパとママはバタバタと出かけていきました。
ちーちゃんは一生懸命、お掃除してます。
で、
ドアが開いてるの。
うふうふ。
あはは。
おうちだと素早く閉められてしまうんだけど
別荘だとなんとなくみんなウキウキしちゃって 鍵のかけ忘れとかあんのよね。
ララちゃんお外に行くチャンーース!です。

大丈夫、ちーちゃんはお掃除に一心不乱だから気が付いてない。
こっそり・・・こっそり・・・
ララちゃんに脱出に成功です!

というわけで、今回は新しい道を開拓しようと思うの。
そういえば犬ってさ、何かっていうと匂いとか音とか言われるちゃうけど
目だってけっこう見えるのよ。
人間は犬の事を近眼だっていうけど
人間の近眼よりかはずっとよく見えるの。
そうやって目も使って、鼻も使って、耳も使って
総合力で道を覚えるわけね。
だから、いろんな所を歩いてないと地図もきちんと出来上がらないの。
飼い犬が万が一脱走した時に自力で帰れるように
皆さんもいろんな道を散歩させてあげてね。

さてと途中まではパパとお散歩した道を行くけど、
ここから新しい道を行ってみるわ。
なんだか面白そうなんだもの。
迷子にならないようにちゃんちゃんとマーキングして、木とかも覚えてと・・・
やっぱ、初めてのところは新鮮だわね。
虫を追ったり、アチコチ眺めるうちに
こんな所に着いちゃった。

あら?

ここにも別荘?

なんだかすんごくボロいけど、ごくごく最近人が出入りした匂いがする。
ていうか・・・子どもの匂いがするんだけど。
しかも泣いた形跡もあるし。
やたらと悲しそうだし。
なんで?

ちょっと言わせてもらうと
あたし達サモエドって<子守する犬>でもあるわけよ。
サモエド族の家族と一緒に生活してる中で、お父さんやお母さんは忙しいわけじゃない?
そこで、あたし達心優しくて頼りになるサモエド犬が
子ども達の安全を守りながら遊び相手をしたってわけ。
うふふ。
あたし達はとっても良い遊び相手なのよ。
シッポ引っ張られても怒ったりしないし
踏んづけられても我慢するし、
すごく立派な子守なの。
で、その血が騒ぐのよねー。
太古の血がさー。

泣いてる子どもを放ってはおけないわ。
どこかから入れないかしら・・・?
あった、あった。
裏のドアの鍵が壊れていて、押したら開いたわ。
子どもの匂いはどこからするのかしら・・・?
2階からだ。
階段を上がってと・・・こっちね。

頭でドアを押し開けてはいると、ロープで縛られたちいさな子が転がってたの。
口に、ガムテープっての?アレを張ってあった。
ひどい事するのね。
これって遊びじゃあないわよね?
大人の世界じゃあ<縛るお遊び>もあるらしいけど
相手は子どもよ。
しかも泣いてたみたいだし。
ほっぺたに泣いた跡があるわ。
これはきっと良くない事がおきてるのよ。
そーよ、そーよ。
子どもを縛るなんてきっと悪党の仕業に違いない。
子守り犬としては、このまま帰るわけにはいかない。

あたしは懸命にその子の顔をペロペロしてみた。
やがてその子は目を開けて何か言いたそうだったわ。
待っててね。
このロープをどうにかしてあげる。
あたしはロープを必死に噛みちぎったわ。
あたし達の牙ってなかなかどうしてすごいのよ。
なんとか子どもを自由にしてあげられたわ。
あたしがさらにガムテープの回りをペロペロすると
その子は自分でガムテープをはがして
「ワンワン」て言いながらあたしにしがみついてきたわ。
小さな子どもの中にはあたし達を怖がる子もいるけど
怖がらないなんて<いい子>ね。
で、その子が言ったの。

「ミータン、おうち帰る。おうち帰る」

よしよし、ララ様が来たからもう大丈夫。
子守り戦隊サモレンジャー!てなもんよ。

その子、ミータンは足に打撲傷を負ってるみたいだった。
あたしは心の中で呼びかけてみたの。
『あたしの背中に乗って。ここから脱出しましょ』
ややこしい事柄はむりだけど
簡単な事なら通じる事があるのよ。
特に子どもにはね。

その子はあたしの呼びかけがわかったみたい。
あたしの背中にしがみつくと
「ワンワン、おうち帰る?」
って聞いてきたの。
あたしは子どもを怖がらせないように小さくオン!て啼いたの。
すると子どもはしっかりしがみついてきた。
通じたんだわ。
ちょっと嬉しくなる時よ。

あたし達、サモエドは子守する犬でもあるけど
ワーキングドッグでもあるわけよ。
雪道を橇を引いて走ったりしてたの。
力持ちなのよ。
こんな小さな子の一人や二人、乗せて走れないようじゃ
ワーキングドッグの名が廃るってもんよ。
ああ、太古の血が騒ぐ!
ってさっきも言ったけど、だってそうなんだもん。
颯爽と走るララ様の勇姿をみんなに見せたいくらいよ。
あたしは子どもを背中に乗せるとそろそろと階段を下りて
さっきのドアを抜けたんだけど、なんだか尖ったものを踏んづけたみたいで
右前足の肉球に痛みが走ったの。

大丈夫、大丈夫。
これくらいチチンプイ!のおまじないでへっちゃらよ。

痛いのを我慢してドアを出たら
「おい!子どもが居ないぞ!」って言う男の声が聞こえたわ。
あたしは目の前の林の中に慌てて飛び込んだの。
危ない、危ない。
危機一髪、間一髪ってやつね。
あーードキドキするぅ。
ボロ別荘の中からは男数人が出てきて捜してるみたい。
見つからないようにそっと行かなくちゃね。
ここはさっき来た道じゃあないけど、大丈夫、きっとさっきの道に出るはずだから。
あたしはとりあえず真っ直ぐ進んでみた。

******

チヒロがテーブルの上で雑誌を広げていると車の止まる音がした。

「ただいまー。もお!パパったらおつまみもいるとかアレもいるとか
 コレもいるとか言い出してずいぶん時間かかっちゃった。ごめんね」

「ううん、お土産あるの?」

「まあ、いろいろとね。ララちゃんは良い子にしてた?」

「え・・・?ママ達と一緒じゃないの?」

「まさか、買い物に連れていかないわよ」

チヒロの心臓がドクンドクンと言い出した。

「私、てっきりママ達と一緒だと思って・・・」

すると父が短く「捜すぞ」と叫び、チヒロは
「ララちゃん!」と叫びながら2階への階段を駆け上がっていた。

ララは何処を捜しても別荘の中にはいなかった。
どうしようと青ざめるチヒロに父は

「裏玄関のドア、ちゃんと確認しとけばよかったなー
 今頃言っても遅いけど・・・
 とにかく外を捜してくる」

「じゃ、あたしはご近所さんにララを見かけてないか聞いてくる。
 チヒロはここでララの帰りを待ってて」

「やだ!私も捜しに行く!」

「ちーちゃん、ララはきっと帰ってくる。
 その時、うちに誰もいなかったら ララちゃん、がっかりするわよ。
 幸いここは携帯が通じるから ララが見つかったら、連絡するし
 ちーちゃんもララが帰ってきたら、電話してね」

慌ただしく父と母が飛び出していくのを見送ったあと
落ち着かないままチヒロは立ったり座ったりしていたが、
やがて思いついてララ専用の水と給餌用のボウルを出して並べた。
お腹を空かせて帰ってくるかもしれない。
喉が乾いているかもしれない。
水を注ぎながら、チヒロは泣いた。
ララが空腹かもしれないと思っただけで泣けて泣けて仕方なかった。
いつもは一握りくらいの量の餌だったが、
今日はボウルに山ほど入れ、チヒロはまた泣いた。

******

どこだっけ・・・道・・・
道がわからない・・・!
帰りの道が見つからない。
どうしよう・・・
ちゃんと覚えてきたはずなのに、どうしよう・・・
さっき慌てて変な所に飛び込んだからだ。
どうしよう、どうしよう。

駄目よ。こんなじゃ。
しっかりしろ、ララ。
ちゃんと覚えてるはず。
思い出せ、あたし。
落ち着け、あたし。
そうよそうよ。落ち着けば思い出せるはず。
ええとええと・・・
あ、そうだ、そうだ。
クネクネの木の下にカエルの匂いがした所。
あった!
ここよ、ここ。
ここを真っ直ぐ来たんだわ。
そして・・・こっちに折れて、と。

うんうん、思い出してきた。
大丈夫。ちゃんと行ける。

ハアハア・・・

なんだか足が痛い・・・
あそこで切ったのかな・・・
さっきまではジンジンしてたけどズキズキしてきた。
あたしのアンヨさん、パパママのところに行くまで頑張ってちょうだい。
この子の無事もかかってるんだから。
ああ、でも、痛いなぁ・・・

重いなぁ・・・
初めは何ともなかったのにだんだん重くなってきた。
お願い、ちゃんと掴まっていてね。

道、間違ってないのにどうして金色ハッパの曲がり角に着かないの?
さっきはもっと早くきたのに。
もう着いてもいい頃なのにどうして着かないの?
なんでまだ赤い実の木の所なの?
間違えたんだろうか・・・?
ううん、この赤い実は来る時見てきたから
間違えてない。

遠いなぁ・・・

あ・・・滑っちゃった・・・
どうしたんだろ・・・?
足の感覚がない・・・あたし、ちゃんと歩けてるんだろうか?
重い・・・
ハアハア・・・
あ、金色ハッパだ・・・
やっと金色ハッパだ。
金色ハッパをこっちに曲がって・・・と・・・

ここを上がらなくちゃ。
でも、重いよぉ。
足、動いてるんだろか・・・
わかんない、全然わかんない。

パパ・・・ママ・・・

ララ、ちゃんと行けるよね?


はあはあ・・・

暗い・・・どうして暗いの・・・もう夜なの?

はあはあ・・・

そんなのどうでもいい。
行かなくちゃ。
前に進むのよ、あたし!

はあはあ・・・

行かなくちゃ。
パパとママが待ってる。
心配してる。
おーちゃんも
ちーちゃんも待ってる。

はあはあ・・・

行かなくちゃ・・・

暗いなぁ・・・ここはどこなんだろ・・・?

はあはあ・・・

行かなくちゃ・・・

はあはあ・・・
なんだか懐かしい匂いがする・・・
ここでちょっと休もう・・・

あ・・・
おーちゃんの匂いがする。
おーちゃんの声がする。
おーちゃんだ、
おーちゃんが居るんだ!

おーちゃん、おーちゃん、
あたしはここよー

どうしよう、
声が出ない。

どうして?
どうして?

おーちゃんも見えない・・・

はあはあ・・・・・

おーちゃん・・・どこ?
見えない・・・
何にも見えない・・・

疲れた・・・ 

はあはあ・・・

ごめんね、ミータン。
ちょっと寝かせてね。
あたし・・・
あたし、疲れちゃった・・・・(続く)
by kumorinotini | 2007-09-03 09:16 | 創作

ミラーサイトだったのに、本家になっちゃって・・・


by kumorinotini