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迷子の迷子の子猫ちゃん~サモエドララの事件簿


あたし、ララ。
サモエド犬の女の子よ。
真っ白でふわふわもこもこなの。
パパとママとおーちゃんとちーちゃんと暮らしてまーす。
えと、趣味は食べることと遊ぶこと。

とある晩秋のある日、
あたしがママとお庭にいると お向かいの向田さんがやってきたの。
お向かいに住んでいる人が向田さんて名前だなんてできすぎだけど
本当のことなんだもん。
とにかく向田さんがやってきたの。
向田さんはあたしの頭をグリグリまでながら感に堪えたように言ったわ。

「いっつもきれいにしてるのねー」

そういわれてママが

「ちゃんと世話しないときれいな花は咲かないし、手をかけた分だけ応えてくれるのも花だからね」

とニコニコしながら答えると、向田さんもニコニコしながら言った。

「私もお花が好きなんだけど、庭つきの家はちょっと買えなくってー。
 そこでこうやってご近所の庭を眺めたり、
 切花を買ってなんとかしのいでるのよ」

「あら、こんな庭でよかったらいつでも眺めに来てよ。
 うちはいつでもウェルカムよ。
 でも、向田さんちの出窓の花飾りだっていっつも素敵よぉ」

「本当?そう言ってもらえるとうれしいわぁ。
 これでも、あれこれ気にして考えて活けたりしてんのよ」

なあんだ、「きれい」なのはあたしじゃないんだ。
ちょっとがっかり。
あたしの事かと思っちゃった。
だってあたし、昨日、大嫌いなお風呂にいれられて
今日はピカピカのふわふわだから、てっきりあたしの事だと思っちゃったの。
勘違いしても仕方ないでしょ。
あ~あ、お庭の事だったなんてね。
ほめてもらえて何か美味しいものももらえるのかなと思ったんだけど。

でも、ママのお庭がいつもきれいにお花が咲いているのは本当のことなのよ。
ママは特にバラが好きなんだけど、バラの中でも豪華なのじゃなくて可愛い感じのが好きなんだって。
だから、やさしいピンク系やクリーム系のが多いのよ。
赤いのもあるけど、それは蔓バラっていうのかな、花が小さいヤツね。
そのほかにもいろいろあってね、季節によって咲く花は変わるから、
ママのお庭は冬以外はいつもお花にあふれているの。

あたしはママのお庭が大好きよ。
なんていうのかなぁ、気持ちの優しくなる匂いであふれているの。
心がギザギザしないのよ。
これって大事よー。

向田さんはママの招きに応じてお庭の中まで入ってきてお花を眺めながら
「この秋明菊って菊っぽくなくて好きだわぁ」
「あら、私もよ。だから、まー、植えたんだけどね。」
なんてママも相手をしている。
ぷぷ。
ママったら、ちょっと前まで秋明菊のことをコスモスの一種だと思ってたくせに。
でも、昔から知ってたみたいにしてお話ししてるのよ。
それにしても、あ~あ、お話が始まったら長いのよー向田さんは。
今日はママも忙しそうじゃないし、こういう時は寝るに限るわ。

ママの足元に横になって、と。

ん?

オレンジ色のバラの株のあたりに見え隠れしているのは・・・伯爵夫人じゃないかしら?
近寄ってみるとやっぱり伯爵夫人。
なんだか相談事がありそうよ。
あたし暇だったから、つきあうことにする。

「もうしわけありませんわね、ララさん。
 犬の問題じゃあないんで、ちょっとあれなんですけど、
 お花の事にくわしいのはやはりララさんだと思いますし、相談してみようかなぁって。
 かまいませんこと?」

「んん、何?何?そこで帰ってしまったらかえって気になるってもんじゃないの」

「そうお?実はね。迷子の子猫がいますの」

「迷子の、ってあらやだー子供向けの歌みたいじゃないのー♪迷子の迷子の~って」

「そうですわね」

「やっだーー!!アタシが犬のオマワリさん?あ、違うーー婦警さんね」

「ララさん、お話をさせてくれませんこと?」

「あ・・・はい」

「でね、昨日、迷子の子猫を見つけたんですの。
 とりあえず、あたくしたちのアパルトマンに連れていって話を聞いたら、
 お花でいっぱいの家にいたって言うじゃあありませんか。
 そこからふらふらと遊びに出てしまって、迷ってしまったってことですの。
 もといた家の事をぜんぜん覚えていないようなら、
 あたくしたちと同じロハスな生活をしてもいいと思うんですけど、
 けっこういろんな事を覚えているようなんですの。
 それで探せるものならその子の家を見つけてやろうって思いましてね。
 で、このへんでお花がいっぱい、といえばララさんのお宅ですものね。
 ひょっとしてララさんのお宅で猫でも飼い始めたのかなと思ったんですけど・・・」

「ううん、うちではアタシだけよ。猫は飼ってないわ」

「あら、そうですか・・・その子が言いますにはね、
 とにかくお花でいっぱいのおうちだったんですって。
 その子自体の出身は話を聞くとどうも・・・その・・・捨て猫だったらしいんですの。
 目もよく開かないような小さい頃に寒くて空腹だったのが
 急に暖かくてミルクもいっぱいご飯もいっぱいのところに移ったって言ってましたからねぇ。
 たぶん、捨て猫だと」

そこまで言ってから伯爵夫人は切なそうな悩ましいような表情になった。
自分の来し方を考えているのかしら。

伯爵夫人は捨て猫とか野良猫とかいう言い方にどうも抵抗があるみたいで、
野良のことは「ロハスな猫」って言うの。
「ロハス」という言葉を知る前は「自由猫」って言ってた。
でも、今は「ロハス」が気に入ってるみたい。
捨て猫の事はそれ以上言い換えできないから捨て猫って言い方をするんだけど。

でも、必ず切ないような悩ましいようなそんな表情をするの。
一度聞いてみたいんだけど、なんだか伯爵夫人のプライドにかかわりそうで聞けないでいるのね。
本当は家猫になりたかったのかな、と思わないでもないんだけど・・・わかんないわ。

でも、伯爵夫人はお屋敷に住んでててもおかしくないくらい、品がいいのよ。
ロシアンブルーとシャムのミックスみたいって誰かが言ってるのを聞いたわ。
あたしよくわかんないけど、とにかく上品なのよ。
でも、今は伯爵夫人言うところの<アパルトマン>に住んでるの。
<アパルトマン>っていうとあれだけどさ、あたしたちが猫オバサンって呼んでる女の人が
自分ちの軒下にダンボールでこしらえてくれたお家なの。
古毛布もいれてくれて日の差すときは冬でもけっこう暖かなんですって。
猫オバサンはあちこちに頭下げてちゃんと世話しますからって、たくさんの猫の世話をしてるの。
偉い人間ってこういう人をいうんだと思うわ、あたし。

えーーと、何だっけ?

そうだ、迷子猫のおうちの話だ。
夫人の話はさらに続きました。

「で、先住猫がいたんですって。その子はおねえさんって言ってましたけど、
 ひきとられたお宅にすでに住んでいて、いろいろ教えてくれたって事は
 先にそこに住んでたってことですわね。
 そこには人間の夫婦とそのお嬢さんが3人いて、
 で、お花がいっぱいだったというわけですの」

「あら、うちはお嬢さん二人よ。3人いないわよ」

「存じてますわよ。でも年端もいかない子猫ですしね、
 白くてケモジャなのを3人目のお嬢さんと、間違える可能性だってあるじゃありませんの。
 あたくしは勝手な思い込みで動かない女なんですのよ。
 ちゃんと確認する方なんですの」

あ、はい。納得。
きちんと証拠をそろえるタイプなのね。

「で、その子の家がララさんところじゃないのはわかりました。
 で、ここから相談なんですの。
 ほら、ララさんてママさんとあちこちお散歩なさいますでしょ?
 そのときにそういうお宅を何軒か見かけたことがないかしらと思いまして。
 花好きは花のあるあたりを歩きたがるのじゃないかって・・・どうかしら?」

「う~~ん、あまり気にしたことはないけど・・・
 今度お散歩に行く時は気をつけて観察するね、でもって、みんなにも言っとく。  
 でも、お花だらけの家のほかにもっと情報はないの?」

「そうですわね・・・本人に会ってみます?すぐに連れてこれますけど」

「連れてこれるんなら、そのほうがいいなぁ」

「わかりましたわ、ちょっとお待ちになって」

伯爵夫人はさっと茂みを抜けると本当にすぐ戻ってきた。
どうも近くに待たせていたみたい。
赤ん坊時代を脱している子猫が太った茶トラの猫に連れられてやってきた。
茶トラの猫は落ち着かなげにあちこち見回しているの。

「こちら、トラジロウさん、そして、この子が例の子猫ちゃんですのよ」



トラジロウさんは あ、どもどもってへこへこして挨拶したあとに、子猫に「ほら、挨拶しな」と教えていた。子猫はすごくかわいい声で
「こんにちわ、白いおねえちゃま」
と言った。
ぐふ、かあいい子!
あたしはおどかさないように低く伏せて子猫に聞いてみた。

「こんにちわ、ニャンコちゃんのお名前は?」

「パトラ」

「パ・・・パトラ?ひょっとしてパトラッシュのパトラとか?」

子猫はふるふると首を振った。

「アタチもアタチのオネエタンもすごくビネコだから、
 オネエタンがクレオでアタチがパトラ、ふたり会わせてクレオパトラなんですって。
 ねえ、白いおねえちゃま、ビネコってなあに?」

子猫は柔らかな灰色の毛を持ちすばらしくきれいな青い目をしていた。

「クレオパトラは知ってるの?」

知ってる、と子猫はうなづいた。

「世界一きれいな女の人の名前だってオネエタンが言ってた。
 オネエタンはなんでも知ってるの、たくさん教えてくれるのよ。ねえ、おねぇちゃん、ビネコってなあに?」

「ビネコってのはね、まあ、見た目のきれいな猫ってことよ。
 パトラちゃんが可愛いってことね。さてとお花がいっぱい、って言ってたけど、
 どんなお花だったかわかる?
 名前がわからなくても、色とか形がわかるだけでもいいんだけど」

「名前わかるよ。オネエタンが教えてくれたから。
 んとねーご飯食べるとこが白いバラでねー、
 そいでねー大きいおねえちゃんのお部屋がピンクのコスモス、
 中のおねえちゃんとこは黄色の菜の花で、
 そいでそいで下のおねえちゃんのお部屋が青い朝顔なの。
 いっつもきれいに咲いてるの。んとね、それからねー、お風呂はジャングルでねー、
 おトイレは柚子なんだって」

「あら、でも、今は咲いてないでしょ?ほら、もうすぐ冬だし、コスモスの咲き残りがあるかもしれないけど」

「ううん、全部きれいに咲いてるの」

全部咲いてるって言ってもねぇ。
バラはともかくコスモスは秋だし、菜の花は春、朝顔は夏休みの宿題にもなるくらいだから夏。
う~~ん、温室があるのならわかるけど、それでもそれぞれの部屋に温室があるってのも すごすぎない?
それほどすごいお屋敷なのかしら・・・?
そのうえ、ジャングルって何よ。
柚子って何よ、だわ。
お屋敷って聞いてもこの子、わかるかしら?

「わかんない。オネエタンが<4エルディーケー>って言ってたよ。
 だから、金色の缶詰は特別の時しかもらえないんだって」

金色の缶詰?ああ、高いヤツってことね。
4エルディーケー?ああ。部屋の数のこよとね。
そうか、お屋敷だったら、6とか8とか、きっとすごい数よね。
ちなみにうちは3LDK。
あらら、話がそれちゃった。

そんなにお花があるって事は・・・
いっつも切花を飾ってあるってことかしら、向田さんちみたいに。
でも、それだと朝顔が・・・朝顔は鉢?
それとも造花かなぁ・・・?
お風呂がジャングルってのも全然わからないし・・・ もっとつっこんで聞いてみるとするか。

「そのお花はいい匂いがした?」

「しないよー」

「触った感じはどう?」

「ヒラヒラなの」 

「ヒラヒラ~って散ってきたのね?」

「ううん。散ったりしないよ。
 飛びついたら爪がひっかかるから気をつけなさいってオネエタンに言われてたのに、
 1回飛びついてブランブランしちゃった。爪がもげそうになったの」

「ブランブラン?!」

思わず伯爵夫人とハモッてしまったわ。
あたしはあわてて聞いてみた。

「じゃあ、お花もろとも倒れたりしたの?」

「違うの。ぶら下がったの。爪がはずれなかったの」

きゃあああーー!!あたしも経験あるわ。爪がはずれなかったの。

「そ・・・それは、そのぉー・・・ひょっとして」あたしはママ手作りのカーテンにあごをしゃくってみせた。「ああいうもの?」

パトラはニコニコして言った。

「うん、あれ。おねぇちゃまんとこは知らないお花なのね。何のお花なの?」

「あれはね、お花じゃなくて雪の結晶の模様なの」

いや、そんな事はどうでもいいのよ。はぁ~カーテンの事だったのか・・・だとしたら、昼間はカーテンなんて両脇に寄せてあるから、犬友達に聞いても無理かしらね・・・ここはやはり猫さんたちの出番かも。
そうよ、そうよ、猫の問題は猫に、ってね。

でも、花模様だらけのカーテンの家を捜すにしたって町の中を全部捜して回るなんて、あまりにも非効率すぎる。伯爵夫人に聞いてみよう。

「この子はどのへんで迷子になってたの?」

「青い木馬公園ですわ。あそこの植え込みのところでみゃあみゃあ泣いてたそうですの。
 見つけたのはこのトラジロウさんですのよ。
 うっかり家から出てしまって冒険している間に迷ってしまったんだそうですわ」

「じゃあ、捜すのは青い木馬公園のあたりね。でさ、犬ってのは昼間散歩するじゃない?カーテンをひいて模様がわかるのは、やっぱ夜よね」

「あら、そうですわね。じゃあ、あたくし達の仲間に呼びかけてみますわ。でも、そのぉ・・・」

「うん、わかった。今日の散歩のときに犬の連絡網を回しておく。情報はたくさんあった方がいいもんね」

「ありがとうございます。では、明日。ごめんあそばせ」

伯爵夫人は子猫とトラジロウを従えてひらりと植え込みの向こうに消えていったわ。

さて、今日の散歩は忙しくなるわね。
うまくコーギーのコーチャンに会えるといいんだけど・・・・
コーチャンに会えますように、と願いながらママに合わせて歩いていると本当にコーチャンに会えたのよ。願えば夢は叶う、ってなんだかディズニーみたいね。
迷子の子猫の話をするとコーチャンはいたく心を動かされたらしく、
眉間にしわを寄せて記憶をたどり始めたので、あたしは黙って待ってた。
しばらくしてから、コーチャンは検索終了みたいな顔になって

「その家はたぶんあの窓辺のすごく華やかな家だと思うんでやんすけど・・・
 確信はありやせん。
 大将(=コーチャンの飼い主)がね、おお、この家は窓に花園がある、
 これはガーデニングじゃなくてカーテニングだなぁなんて一人で笑って受けていやした。
 しかも、その家、ちょうど青い木馬公園の近くでして」

というわけでコーチャンはシッポを振って耳を動かしてその場所を教えてくれたわ。これが<当たり>だったら、猫さん部隊を出動させなくてもいいみたいね。

次の日、あたしは庭にやってきた伯爵夫人にコーチャンの情報を教えたの。伯爵夫人はすぐに子猫を連れていってみると言って急いで帰っていったわ。



しばらくしてから、伯爵夫人がまた植え込みをくぐってやってきた。

「ララさん、あの子はちゃんと家に戻りましたことよ。
 あの子はベランダの付近はよく覚えてなかったみたいでしたけど、
 レースのカーテンがバラの模様でしたし、家族の匂いがする、なんて申しますのでね
 あの子をそっとベランダに置いてみましたの、
 であの子がミャアミャア泣いたら女の子が3人飛び出してきて
 あの子を抱き上げてとても喜んでいましたのよ。
 落ち着くべきところに落ち着いたってところですわね。
 そしてね、ビックリしたんですけど、一番小さな女の子があたくしとトラジロウさんに気づいたんですの、
 そうしたら、3人でヒソヒソ話をいたしましてね、一番大きい方がお皿にキャットフードを山盛りにして
 あたくし達の方にさしだしてくれましたの。
 ありがとう、あなたたちが連れてきてくれたのねって、
 お腹が空いたらいつでも来てねって言ってくださいましたのよ。
 優しい良いお嬢さんたちで、あの子は幸せですわね。
 本当に幸せですわ。いくら飼われていても、そうでもない場合もありますものね」

あたしもひどい扱いを受けている仲間を何匹か知ってるので、伯爵夫人の言葉を聞いてちょっとしんみりしちゃった。
そうなの、生きている楽しみがないようなひどい扱いを受けている動物がいるのも確かなのよね。
可愛がる気持ちがないんなら、どうして動物を飼うんだろうって思うし、そういう仲間をみかけると悲しくなるわ。
あんまりひどいとママたちが相談して新しい飼い主を捜したりする時もあるんだけど、それは数少ないの。
本当に稀なの。
それにひどい飼い方をしているくせに「他人が文句言うな」なんて怒りだす人もいて、話がうまくつかない事が多いんだって。
良い家族とめぐり合って幸せに暮らすって意外と難しいことなのかもしれないわね。
とあたしがつらつら考えていると、帰りかけた伯爵夫人が振り返って

「でもねぇ、ララさん、あたくしはロハス猫ですけど、
 猫おばさんもいるしアパルトマンもあるし友達もいるし、
 こういう素敵な人間のお嬢さんに会えることもあるし・・・
 欲張らなければけっこう幸福な生活だと思いますのよ。
 つまりは安心して眠れる所と好意を持ってくれる人とポッチリのご飯があれば、ってことですわね」

ってチャーミングに笑ってから
 「では、ごきげんよう」と言うか言わないかのうちに
スラリと植え込みの向こうに消えていったの。

伯爵夫人の消えたあたりを見ながらあたし強くうなづいてたわ。
そうよ、そのとおりよ。
伯爵夫人の言うとおりだわ。
寝るところと大好きな人とポッチリの・・・・

オホン。

ご飯は山盛りを希望します。
by kumorinotini | 2008-09-25 08:01 | 創作

ミラーサイトだったのに、本家になっちゃって・・・


by kumorinotini