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漆塗りのお椀

師匠が4歳くらいの頃。
バス待ちの時間が長かったので、近くのこぶりなデパートに入ったことがあるの。
買う気はないから、師匠の手をひいてあちこち眺めながら歩いてたら、少し奥まったところで漆器の実演販売をしてた。
実演たって、漆を使うのはやはり難しかったと見えて、お椀を削りだしていたんだけど。

その漆塗りのものは輪島とか会津とか春慶とかではなくて、初めて聞く名前だったわ。
食器好きの私が思わずお椀の削りだしに見入っていると、
仕事をしていた職人さんが
「うちは有名な漆塗りじゃあないけど、物は良いんですよ」とおっしゃる。
漆器なんて割ってみないといいかどうかわからないから、その言葉を鵜呑みにはできなかったけど、
つやつやときれいだったし
名前の知られてないせいかお値段はお安め。
といっても、そこそこのお値段だったんだけど。

未練たらしく並べてあるお椀を眺めてたら、
中に幼児用と思しき小ぶりの赤いのが置いてあって、ふと師匠に買ってやろうと思ったの。
千円前後だったと思うわ。
子供に使わせるにしては高いな、と思ったけど、その小さめのお椀が可愛かったのと、
やたらと食の細い師匠もこのお椀なら少しはお味噌汁を飲んでくれるかなと考えたせいもあるの。

とにかくひとつだけ買って帰り、
以来師匠がそれを使い続けること15年!

なんと漆のお椀はびくともしなかったわ。
そのへんの300~400円くらいのお椀だと2・3年で縁がはげたり、ひどい時は欠けたりするのに、
どこもなんともならずにずっと美しいねっとりとした艶を保っていたのよ。

毎日そのお椀を洗いながら思ったわ。
良いものを入手して長い事使う方が結局は安上がりなんだなって。

でも、師匠も20歳近くなると
年齢に比較してお椀の大きさがあまりにも<お子ちゃま>すぎたのでとうとう大き目のを買ったんだけど
手ごろな値段の塗りのが手に入らなかったので
安物を買ったところ・・・・
やはり剥げたり欠けたりしてすでに今の出2代目。
本物は違うって痛感したわ。

あの時、いっそ大人用のを買っておけばよかったなぁと
ずっと後になってから後悔したわ。
ついでに自分達用のも買っておけばよかったってね。
後悔先にたたず、なのよ。

でも、あの時、家族用に二千~三千円をみっつは・・・・やっぱ、買えないわよねぇ。
だって、まだまだお金のない若夫婦だったんだもの。
ていうか今だって買えないけど。

どこかで「えいやっ」と思い切らないと買えないのかもね。
だから、今は少し剥げちょろけたお椀を使ってるわ、3人で。
いつか手ごろなお値段の塗りのお椀にめぐり合えることを願いながら。
by kumorinotini | 2008-11-05 13:14 | 暮らし

ミラーサイトだったのに、本家になっちゃって・・・


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